■親は何も語らない
わが国で相続税を支払うケースは、年間の死亡者のうち、10人に1人にもなりません。これは、わが国の相続税制度に起因するのですが、ほとんどの家庭では相続税とまず無縁といってもいいのです。
しかし、相続税は課せられなくても、親族の誰かに不幸が起これば、少ないとは言え、残された財産を誰かが引き継ぐことになります。その時、親がそれらの分配の仕方を決めておいてくれればいいのですが、ほとんどの場合、親は何の意思表示もしないまま彼岸に旅立ってしまうのです。
そこで、後処理をしなければならない家族は面倒な事態に直面することになります。それは、残された財産をどのように配分すればいいのか一人では決められないということです。残された財産がすべて現金や預金であれば、法定相続割合に応じて分配することも可能ですが、簡単に配分できない自宅のような不動産はスムーズにはいきません。
唯一の相続財産が不動産という場合、そこに住む人はいいとして、そうでない相続人にとっては、処分もできず、不満がたまってしまいます。財産を残した本人は、すでにその場にはいないのですから相続人同士でじっくり話し合うしかないのです。
相続人の間で親の財産を公平に分配しろと言われても、分配の基準がわからない人たちにとっては、苦痛以外の何ものでもないのです。誰かが中心になって心血を注いで配分を決めても、もらう側にとっては公平に配分するのが当然と思われ、あまり報われることはありません
■子供も言い出しにくい
そんな苦労を相続人にさせるということを、ほとんどの親は理解していないことが多いでしょう。そこで、子供たちとしては、親が生前に財産の配分方法を決めておくか、分割しやすいような財産を残すようにしてもらいたいと願うばかりなのです。
ところが、子供たちには親がどのような財産を残し、どのような配分をするかについて口出しをすることは、なかなかできるものではありません。それは、子供が親の財産を当てにしていると思われたくないからなのです。
多くの相続人が願っていながら、結局、親は遺言書を書くこともせず、分配の難しい財産を残すという結果になるものなのです。親子の関係であれば、それでも、多少の葛藤はあったとしても、相続財産の分配問題は乗り越えられることは多いでしょう。
しかし、子供がいないご夫婦や、未婚の方の相続の場合、親子の場合とは比較にならない難しさが生じる場合があるのです。
貯金の払い戻しをしようにも、法定相続人である兄弟や甥や姪全員の意思表示が必要となると、なかには十年たっても分配がまとまらないというようなことも珍しくはないのです。これによって、親族間の良好な関係も崩れ、修復不可能な事態に発展するということもあるのです。
こんな時、その道のプロは明確な指針と具体的な手法を提供してくれるはずです。いくら考えても終わりのない問題を乗り越えるんは先達の知恵は重要です。