遺産分割のやり直しで相続税はどうなる

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税金には思わぬところに落とし穴があります。本人同士では税金がかかる認識のない取引であっても、後から税金の対象となることが判明し、泣く泣く納税するなどということがままあるものです。

代表的なものが離婚における財産分与で、夫名義の不動産を妻に財産分与した場合、その不動産を時価相当で売却したものとして、譲渡所得に対する課税がなされます。泣きっ面に蜂というところでしょうか。

■分割協議のやり直し

交渉というものは、一度にスパッと片がつくとは限りません。交渉の過程で事情が変わったり、心変わりが起こって、なかなか最終的な合意にたどりつかないということは珍しくはありません。

相続手続の中でその交渉に当たるのが遺産分割協議です。被相続人への貢献度や、一部の相続人が生前に多くの財産をもらっている場合など、他人同士なら話し合いで着地点を見付けられる内容でも、身内となると容赦なく争うことにもなりかねません。

しかし、何とか遺産分割協議書に調印し、それに基づいて不動産や預貯金の名義変更も終了した後でも、再度遺産分割をやり直すというような事態が生じる場合があります。

自宅を引き継いだ長男が、やはり自分はその家には住まないからと、いったん成立した遺産分割協議書の内容を変更して、妹に引き継がせるというような場合です。

不動産の相続登記や預貯金の名義変更をする前であれば、遺産分割協議書を何度でも修正することは可能です。相続人同士の合意が対外的に確定したわけではないからです。

しかし、一旦確定した遺産分割協議に基づき、相続財産の対外的な権利関係を確定しますと、親族間で遺産分割をやり直し、名義変更をし直すことはできても、そこに新たに税金の問題が発生します。

もともと相続税の支払い対象となる相続は数パーセント程度で、殆どの家庭では相続税とは無縁です。

ところが、そのような相続税の対象とならない家庭でも、遺産分割をやり直すと、一旦確定した財産権を他の相続人に贈与するということになり、とんでもない額の贈与税がかかる場合が出てきます。

特に不動産や多額の預貯金の再分割は、名義変更の事実が客観的な証拠として残るため、課税される場合が多くなります。

分割協議のやり直しで、一旦権利関係が確定したものを、他の親族に名義変更するということは、無償で他の相続人に財産を譲ることになります。税の考え方では遺産分割のやり直しという発想そのものがないのです。

したがって、遺産分割を行う場合には、後々のことも考えて安易な分割は避けるべきなのです。

■遺言と違う分割

被相続人があまりに非現実的な遺言を残した場合、それを無視して相続人同士で遺産分割をすることがあります。

この場合、遺言と違う分割ということで、何らかの課税がされるのではという疑問が出るかもしれません。

しかし、相続では、遺言の効力より、相続人同士で話し合って決めた分割協議が優先されるため、遺言を無視したとしても、そこに税の発生する余地はないのです。

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