■生前に受けた多額の贈与
親にとってはどの子供も等しく可愛いものです。長男だから、末っ子だからと愛情に区別はつけません。しかし、子に対する愛情とお金の掛け方は必ずしも等しいとは限らないのが現実というものです。
例えば、長女の嫁入りに多額の持参金を持たせたり、長男が独立して家を買うための資金を親が出したような場合、相続の時に残った財産を法定相続分に従って平等に分配しようとすると、父親の生前に多額の贈与を受けた子と、そうでない子の間で明らかに不公平が生じてしまいます。
そこで、配偶者や子という相続人に行った生前贈与で、婚姻や、養子縁組及び生計の資本のための贈与を「特別受益」と呼んで、民法はこの贈与を過去にさかのぼって(贈与の時期は問わない)相続財産に算入しています。
極端なケースとして、長男が父親の生前に父親が所有していた全財産を貰っていて、他の兄弟には一切財産が残されていない場合を考えれば、他の兄弟は、その贈与された財産を再分割して欲しいと思うのも人情というものです。
■遺産相続の最低保障
しかし、いくら過去の特別受益分が相続財産の計算上で加算されたとしても、父親が遺言書で、全財産を特別受益を受けた長男に相続させると宣言してしまうと、結局、他の兄弟は財産の分配を受けられないようにも思えます。
しかし、父親が稼いだ財産で暮らしてきた家族の一部の人に遺産が全く残されないとなると残された家族が生活に困窮するケースが出たり、また、夫が残した財産は妻も一緒に作ってきたのだとして、妻にも潜在的に持分があると考えられます。
そこで民法は相続人の全てに一定の相続権割合を保障しており、これを「遺留分」と呼んでいます。
この遺留分は、遺言によっても奪うことができないため、もし、先ほどのように長男が全財産を生前に贈与されていた場合や、遺言で贈与されるような場合には、相続人はその遺留分相当額の配分を請求することが可能なのです。
ただし、兄弟間で遺留分の主張をし合うようなケースはほとんどないとは思いますが、複雑な家庭事情を抱えた相続の場合には、遺産分割や遺言執行時に争いが生じることもあるのです。
なお、子供のいないご夫婦の場合、夫の死亡に伴って、夫の兄弟姉妹が相続人として登場します。
兄弟姉妹には遺留分が認められていないのですが相続権はあるため、夫が妻だけに財産を残したければ必ず遺言で相続人を妻に特定するべきなのです。
■生前に遺留分を放棄する
相続は、今まで仲の良かった兄弟に大きな感情的な亀裂を生じさせてしまうことがあります。
つまり、相続は財産を残す者の意思が尊重されるにもかかわらず、父親の死後はその子ども同士が権利を主張する(相続ではなくて「争続」が起きる)ということになってしまうのです。
そこで、父親の生前に、全財産を長男に相続させるという遺言を残し、家庭裁判所の許可を得て、各相続人の遺留分を放棄させることが可能となっています。
もちろん、相続予定者に、いやいや遺留分の放棄をさせることは不可能ですので、十分な話し合いをする必要があります。